ミュージアム・美術館とは何かという問いに対し、キュレーターや学芸員は試行錯誤奮闘している。美的なものを美しく恒久的に見ることができあるいは学習する場所である美術博物館を知的な共有財産の空間として維持する大義がまず其処にはある。高額な美術作品の収集が必要となり、著名な作り手たちの作品や由緒在るものを展示する。訪れる人間の世代や興味関心生活スタイルに応じる必要もある。場所の性格に照らされた展開も加わる。
百年昔のサーカスのような虚仮威しの興行では勿論ないけれども、広範囲に渡る展開は難しいので、ポインティングな展開と成らざるを得ない。時代の風をあびて時に優雅に時にひっそりと静まり返ることもあるだろう。美術館とはそういうものだ。
いずれにしても、多様性の時代となった現代においてより多くの世代や場所の性格によっては観光的な意味合いも含めて展開するとなれば、美術館自体の風通しを考慮し維持する立場の臨機応変と観客という差異の境界を柔らかく切り崩して、明るさにみちた楽しめる共有空間と見做すことからはじめるべきだろう。固有名の通った従来型の美術館で行う試行として試論の冒頭にまず考えた。マツシロオルタナティブは、2012年夏から秋にかけて開催されたまつしろ現代美術フェスティバルの連携併置展示スペース(松代文武学校がメイン会場)としてエントランスホールにて美術家の山上晃葉が池田満寿夫美術館友の会主催にて継続展開したことが契機となり、美術館側の要望に対して計画された。
池田満寿夫美術館は故池田満寿夫氏作品のコレクションにて亡き作家の文脈を様々に辿りなおす企画を繰り返すひとりの美術家の作品を展示展開する民間の美術館であり、今回併置企画されるプロジェクトはあくまでエントランスホールと中庭に限った展開であって、池田満寿夫作品の企画展示空間は元より温存される。
池田満寿夫美術館の本来の目的は池田満寿夫の作品を展示展開するのみという唯一性に貫かれているが、時代と共に多様な関係が其処で結ばれあるいは共鳴する場所としての活性を計ることが、こうした試行で可能ならば継続的に行いたいと願っている。人間は場所を知る為に見えるモノ、コトに倣うのであり、そういう意味で、こうした接続的プロジェクトで場所を制作体験する若い美術家たち自体が、池田満寿夫を辿り直し新しい意味を亡き作家に与える役割を担う可能性もある。また同時に、相対的な眺めによって、現在と過ぎ去った時代表象が視界に併置された観客は、単に過去の寵児を幻視するばかりではなく、今という現在を抱きしめつつこの美術館の唯一的な意味を再認識するだろう。五月に友の会主催イベント「ゲスト・トーク」で画家で友人だった岡澤喜美雄氏が学友・池田満寿夫との思い出やご自身の活動についてお話した際に好評を博した、「ロジェ・ア・ターブル」安達浩平氏のケータリングのお料理をマツシロオルタナティブオープニングパーティにて引き続きお願いした。季節や場所に応じて自在に変化する機知に富んだ創作料理を楽しみながら多くの方々が交流されることを嬉しく思う。
時代の寵児だった池田満寿夫は亡くなってから16年が経過しており、2000年、2002年、2008年に回顧展が開催されている。マツシロオルタナティブ展開中は、開館15周年企画展「池田満寿夫 私のライフ・スタイルと芸術」が開催されている。
文責 町田哲也 / 計画者
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